これほど徹底的な分析が戰爭についてなされた事があるであらうか。大江健三郎氏から清水幾太郎氏まで、保革の別なく、三十名もの知識人の防衞論を痛烈に批判し、戰爭の無くならないゆゑんを説いて、平和惚けの日本人に警鐘を打ち鳴らす。知的誠實を宗とする松原正の警世の書。
人間は正邪善惡を氣にせずにはゐられず、それゆゑ戰爭は無くならないのだが愚鈍なる平和主義者はさういふ道理がどうしても理解できない。そして愚者が非武裝中立、無抵抗無暴力の「平和の理論」とやらを振り廻せば「餘程の天邪鬼でもなければ、その主旨には反對出來ない」とて保守派も及び腰になる。つまり、愚昧を咎められずして却つて人類の絶望を憂へる氣高い御方として買ひ被られる事にもなる譯だから、戰後三十八年、平和主義者は時知り顔して おのが理論を研ぎ澄ます暇も必要も無かつたのである。(本文より)
第1章 人間は犬畜生ではない